2サイクル・ロードモデル、復活

目次

数々の規制を乗り越え、現代によみがえる珠玉のモデル

2022年7月 – モータリストが今回、あらためて正式に紹介するのが、イタリア生まれのオリジナル・2ストロー
ク・エンジンを完全にオリジナルに設計したシャシーに搭載するVins Duecinquanta(ヴィンス・ドゥエチンクアンタ)を作り上げたハンドメイド・マニファクチャラー、「Vins Srl」社と、そのエンジンをオリジナルのパイプ構造のシャシーに搭載したストリートマシンLangen Two Strokeを制作する「Langen Technology Ltd.」社の2社だ。

両者に共通するのが、Vins Srlが開発したオリジナルの2サイクル(ストローク)エンジン。環境規制が激化する中、事実上ロードモデルとしての2ストロークエンジンがなくなってからすでに25年余りもの時間が経過している現代、オフロードモデル用の2ストロークエンジンの開発はヨーロッパのごく一部で継続されているがそれも基本はレーシングエンジンであり、公道を規制に則って走らせるために必要な環境性能はもちろん、耐久性やドライバビリティを考慮して製造され開発されているものではない。この間、2ストロークエンジンのメリットに着目し環境性能を鍛え上げたショーモデルも一部には存在したが、結局量産車として登場したことはなかった。しかし、Vins Srlを創業したエンジニア、Vincenzo Mattiaはこの常識に挑戦し、まったくオリジナルで、現代の環境規制であるEURO-5に適合しながら、公道をストレスなく走り楽しむことのできるエンジンを作り上げた。

エンジンの手本となったのは最後の2サイクル・ロードレーシング・エンジン、「Rotax 258」だ。アプリリアの250ccGPマシンに搭載されたこのエンジンを研究し、選ばれたのは360度同時爆発の90度2軸Vツイン、というレイアウト。Rotaxの弱点であったギアボックスやクランクケースはVins Srlによる内製で制度と剛性を圧倒的に高め、カセットPR22-07001式ギアボックスには6段のオリジナル・トランスミッションを搭載している。シリンダーももちろんオリジナルで、ピストンは造詣の深いVORTEXに製造を委託している。ボアxストロークは54×54.5mmとわずかにロングストロークの249.5cc。パワーバルブ方式の排気デバイスも装備している。

吸気はさらにオリジナリティに富んでいる。3件の特許を取得し、さらに数件を申請中という燃料供給システム(FI)は、気筒当たり1本のインジェクターをリードバルブ上流に用意して、吸気量はギロチン式スライドバルブでコントロールする仕組み。スロットル全開時の吸気量を確保しつつ、アイドリングから正確に吸気量を制御し、抜群のドライバビリティと実用的なパワーバンドに大きく貢献した。

2サイクルエンジンに欠かせない混合油は4つのデロルト製電子制御オイルポンプを介して、リードバルブ付近に設けられた気筒当たり2本の専用の通路(チャネル)から供給される。混合比はスロットル開度やエンジン不可に応じ
てECUが判断し、0.1%-5%の範囲で提供される。オイル消費量はこの結果僅か8200km/L(Euro-5モード走行時)と驚異的な数値に収めており、規制対応に大いに貢献している。こうして開発され、完成したこの画期的な2サイクル・Vinsエンジンを搭載するのが、モータリストが輸入するイタリアとイギリス、それぞれのマニファクチャラということになる。

まず、イタリアのVins Srl。エンジンの開発、製造元であるVins 社は、フェラーリでフォーミュラマシンの開発を担当してきたヴィンセンツォ・マッティアと同僚のニコラ・トレンターニが、ビジネス面をサポートする高校時代からの親友、ジュゼッペ・エヴァンゲリスタを誘って設立した、フェラーリの故郷でもあるイタリアはマラネロのエンジニアリング企業だ。社内にオートクレーブも持つヴィンス社は、フェラーリをはじめ、多くのレースカーにカーボンパーツを提供するサプライヤーであり、またその豊かな経験を活用し、さらに3次元測定器をはじめとする高度な機器を保有するデザイン・エンジニアリング会社としての側面も有している。

創業者であり、エンジニアリングを担当するヴィンセンツォは、フェラーリ時代から自分だけに作れるオリジナルのエンジンを完成させ、世に問うことを夢見てきていた。実際、自宅のガレージで2015年には既存のエンジンをベースにプロトタイプをすでにシャシーダイナモの上でまわすことに成功している。その後、2017年にVINS社を設立、社業であるエンジニアリング・サービスを営みながら、このオリジナルエンジンを完成させたのだ。レース仕様、ストリート仕様共に75hp/45Nmを発揮するエンジンは、単体重量はわずか28kgにすぎない。

VINSでは、このエンジンをベースに、フル・カーボンのシャシーを編み上げていくという手法でマシンを完成させた。車体設計の肝はヴィンセンツォが固め、それを二コラが仕上げてドゥエチンクアンタは完成したのだ。メインフレームは、世界最古のスポーツ・トロフィーとして知られ、参加国が威信をかけて最新技術を鍛え上げられた船を擁して戦う「アメリカズ・カップ」のカタマラン(双胴船)のデザインに大きく影響を受けたという、フルカーボン・モノコック構造。製造は完全に自社で行われるこのフレームはエアロダイナミクスも徹底的に研究され、前面投影面積が極小に抑えられ、ダミータンク内にラジエーターを配する独特のレイアウトながらも、十分な吸気と冷却が行える構造を誇っている。

フロントフォークもカーボンでダブルウィッシュボーン構造、リアフォーク(スイングアーム)もカーボン。前後ホイールももちろんカーボンコンポジットでまとめ上げられているVins ドゥエチンクアンタは、レース仕様であるコンペティツィオーネの車両総重量をわずか102kgに押さえ込んでいる。公道走行可能なストラーダは105kgだ。

VINSはこのドゥエチンクアンタの顧客向けの生産を徐々に開始している。入手にはあらかじめ予約が必要であり、また近年の資材高騰から特にカーボン生地(プリプレグ)の入手が難易度を高めているため、車体の製造にも時間を要する傾向にあるが、おおむね受注から90日程度で完成のスケジュールで受注を受け付けつつある。

日本の顧客からの受注はモータリストが担当し、Vins社と連携しながら、同社で直接購入する以上のアフターサービスとサポートを提供していく。Vins Duecinquanta Competizione (レースモデル)についてはすでに予約受付中であり、耳ざといお客様からは実際にすでに日本でもご発注いただいいている。生産能力も極めて限られており、完成まで時間を要することからも、ぜひご興味のある方は早めにご発注いただきたい。


一方、イギリスに本拠地を置き、VINSと密に連携しながら、ストリートモデルの制作では先行しているのが、LangenTechnologiy社だ。Vinsのエンジンをオリジナル設計のアルミ製パイプフレームに搭載した。ストリートモデルを発表、2022年のGoodwood Festivalにも登場させ、走らせている。もともとマクラーレンやBAC、M-Sportsといった少量生産のスーパースポーツカーやフォーミュラカーを手掛けるメーカーへのエンジニアリングリソースとして立ち上げられ、認められてきた同社は、創業者のクリストファー=ラットクリフの出身母体の一つでもあるCCM社で培ってきた超軽量で、美しく、卓越したハンドリングを誇るマシンづくりを、個人的なつながりから得たVinsの2サイクルエンジンと融合させ、オリジナル・モーターサイクルを制作するに至ったのだ。Langen
Technologyがほかのモーターサイクルを持たず、突然この美しいパイプフレームの車体にVinsの超軽量なエンジンを積み込んだ背景は、ここにある。

7020T6アルミニウム合金によるパイプフレームは驚くほど軽量。燃料タンクなどボディワークの随所にカーボン素材を多用して軽量化を進め、公道走行可能な保安部品をすべて装着した状態での車両重量は、120kgに抑えられている。オーリンズの正立フロントフォークやカンチレバー・スタイルのリア・デュアル・ショックアブソーバーなど、斬新なテクノロジーというよりは、既存の技術を美しく仕上げたLangenは、フルフェアリングとモノコックボディでカバーされたVinsとは全く異なる外観を持ちながらも、圧倒的な先進性を誇る唯一無二の2ストロークエンジンを搭載した、最初のストリートモデルとして、歴史に大きなステップを刻むことになるのは間違いな
い。生産はVinsのエンジン生産の能力に左右されるが、こちらも受注からおおむね90日程度での完成を目標として予約の受付を行っている。Langenもすでにその代理店となるモータリストで受注を受けており、2022年度中にはその第一号車が日本の路上に姿を現す予定だ。

Vins Duecinquanta Competizione/Strada
ヴィンス ドゥエチンクアンタ コンペティツィオーネ/ストラーダ

現代の奇跡、よみがえった2サイクル・オリジナルエンジンを、まったく独自開発のカーボンコンポジット・モノコックフレームに搭載したスーパープレミアム・スポーツ。1台1台にお客様の名入りプレートを装着して出荷されます。

  • エンジン:Vins製水冷2サイクル90度Vツイン、電子制御燃料噴射
  • 最高出力:75hp@11,700rpm
  • 最大トルク:45Nm@11,700rpm
  • 排気量:54.0×54.5mm、249.5cc
  • シャシー:カーボンファイバー製モノコック
  • キャスター:23度(可変機構付き)
  • フロントサスペンション:ダブルAアーム式カーボン製フロントフォーク、モノショック
  • リアサスペンション:プッシュロッド式並行配置モノショック、カーボンファイバー製リアスイングアーム
  • タイヤサイズ:120/70-17(F) / 150/60-17(R)
  • 車両重量:102kg(ガソリン抜き)
  • 国内希望小売価格: 7,500,000円(コンペティツィオーネ、10%消費税込み)、9,900,000円(ストラーダ、10%消費税込み) ※いずれも予定価格(今後の為替や資材価格変更によって変動の可能性があります)
  • 特別仕様: ボディワーク塗装(Britten風への変更) ¥150,000、カーボンホイール装着(ノーマルからの変更) ¥450,000 ※その他細かく仕様変更が可能です。具体的な変更点と価格についてはお問い合わせください。

Langen Two Stroke(ランゲン ツーストローク)

Vins製エンジンを搭載した、ストリート・カフェレーサー。Vinsのフィロソフィーを生かした徹底的に軽量な車体と、独
特のアルミパイプフレームが異次元の走りを魅せる。

  • エンジン:Vins製水冷2サイクル90度Vツイン
  • 車体:7020T6アルミニウムスペースフレーム/カーボンファイバー製シートユニット(シートサブフレームなし)
  • フロントサスペンション:オーリンズRWU正立式フルアジャスタブル・フロントフォーク、インナーチューブTINコート
  • リアサスペンション:K-Techレーザー・デュアルショック、フルアジャスタブル
  • ディメンジョン:キャスター23度、トレール97mm
  • ホイールベース:1450mm
  • 燃料タンク容量:14L
  • 車両重量:119kg(ガソリン抜き)、前後重量配分53:47
  • フロントブレーキ:ブレンボ製320mmダブルディスク、HEL製ラジアルマウントキャリパー
  • リアブレーキ:ブレンボ製240mmディスク、HEL製デュアルピストン・削り出しキャリパー
  • フロントホイール:3.0インチ幅、アルミ製リム、ワイヤースポーク、120/70-17 ダンロップTT100GP
  • リアホイール:4.25インチ幅、アルミ製リム、ワイヤースポーク、150/70-17 ダンロップTT100GP
  • 国内希望小売価格:8,000,000円(10%消費税込み) (基本仕様。イギリスから日本への輸送費、ならびに輸入諸掛り等一切を含む) ※いずれも予定価格(今後の為替や資材価格変更によって変動の可能性があります)
  • 特別仕様: フレーム塗装(ブロンズからの変更) ¥100,000、アルマイト着色(シルバーからの変更) ¥80,000、ボディワーク塗装(カーボン地からの変更) ¥150,000、ボディワーク塗装(シルバーからの変更) ¥90,000 その他細かく仕様変更が可能です。具体的な変更点と価格についてはお問い合わせください。

なお、これらのモデルは、すでに複数台の受注を得ています。日本のお客さまは排気量至上主義の方が多く、こうした超高額の小排気量モデルをお選びになるお客さまはもとより少数派かとは心得ておりますが、いずれも「飾っておく」ためではなく、乗ってお楽しみいただける最高のスポーツモーターサイクルとしてお選びいただける商品として、モータリストでは、両メーカーともども自負し、お勧めしたく考えております。その、ほかを圧倒するエンジニアリング、作りの良さ、本物の少数限定生産のカスタムモデルである希少性、そして何よりも「既存のモデルを作り替えたものではない絶対的なオリジナリティ」をじっくりとご覧いただき、価格以上の価値にご共感いただけるオーナーと出会えますことを、私
たちは心より楽しみにしております。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次